If you say so…@Re:月に抱かれたキミにサヨナラ | 第7並行世界のユートピア
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2018年2月6日火曜日

If you say so…@Re:月に抱かれたキミにサヨナラ

Re:月に抱かれたキミにサヨナラ とは?
文月陽介が再構成中のオリジナルストーリー。
構想しすぎて寿命が尽きてしまいそうなので、書きながら練ることに。

◯Bishop

男が豪勢な革張りのソファに腰を下ろして、テーブルに置かれたグラスに手を伸ばす。
琥珀色の液体が揺れるそれをゆっくりと口元に運んで、手を傾ける。

シャワールームから目の覚めるような美人が一糸まとわぬ姿で現れると、男に歩み寄る。

女はソファの前に立つ。
濡れた褐色の髪が女の背中に艶かしく張り付いている。

男は呆けたように口を開けたまま、触ると蕩けてしまいそうな女の肢体に両手を這わせる。

高級ホテルの最上階。
全面ガラス張りのワンフロア。
ロイヤルスウィート。

全て見えている。

私達はそれを視ている。
それも半マイル離れた廃ビルの屋上から。

趣味で他人のプライベートを覗く連中との違いはというと、単純にそれが仕事であるのかないのかということと、我々が構えているのは盗撮に使われる類の安物の機器ではなく、物騒なアンチマテリアルライフルだということだ。

 映像は司令部にも転送されている。
そこには当然大勢の女性オペレーターもいるが、戦闘適応調整を受けていないからさぞかし不快に映るだろうし、スティール中佐も表情をカーボンナノチューブ並みに硬くしているだろうと想像し、クスリと笑がこみ上げて来る。

「ホーム、こちらウィンディゴ。見えてるか?」

 同じく隣でライフルを構えるスウィートが口を開いた。

『ウィンディゴ、すべてクリア』

「了解。こちらもエリアを確保しターゲットを監視中。他のチームからも脅威検出の報告はない。予定通りです」

『こちらもターゲットの生体情報は確認済だ。待機せよ』

「だとさ。俺達が報告しなくても、全部見えてるんだけどな」

 彼は分隊内のプライベート通信に切り替えながら言った。

「形式はどんな時でも重んじられるんだよ」

「女の抱き方に形式なんてあるのかよ?女がいるなんて『シナリオ』に無かったな。それにしても、いい御御足(おみあし)だことで」

スウィートがレティクル越しに女の肢体をなぞるような仕草をする。
HMDの端に並んで見えるスウィートのアイカメラの映像が女の太ももから背中にかけてゆっくりと移った。
無線越しに口笛を吹いたのはニコルかレインだろうと思った。

「視聴者の意見がシナリオに反映されるのさ。最近のドラマは日々シナリオが書き換えられてる」

「脚本家じゃなくて良かったな」

「いやいや、脚本家になってみたいね。専用のソフトウェアにシナリオを走らせれば良いだけだ。あとはAIがやってくれる」

「じゃあ奴らはなんだって俺達の5倍以上の給料を貰っているんだ?大学出たてのお坊ちゃんとかでもそうだぜ。そういやこの前の休暇にミリタリーものの人気ドラマを観たが、ハハハ。そりゃひでぇ出来だったぜ」

「それって『暁の任務』ってやつだろう」

「そうそう、それ。なんだって主人公がイタリア系のチャラいひよっこなんだよ。もっと他に候補はいただろうに。俺とかよ」

「なら批評でも書けよ」

「お前さんこそ、シナリオ書いてみろよ」

2ブロック離れたビルの屋上からベアが呼びかけてくる。

「お楽しみ中に悪いんだがな」

ベアがHMDに表示されたエリアマップを拡大させる。

「ほんの少し前から警備の連中の通信頻度が増している」

「傍受できたか?」

スウィートが聞く。

「今ドローンがやっている。コードがヒットしなくてな。検索中」

ベアがホテルのセキュリティシステムへ侵入し、ドローンや警備の配置図をリアルタイムで表示させていく。

「物騒なものぶら下げたジェントルマン達が最上階に向かっている」

「別の場所に移送されるな」 

「やっこさんも気の毒にな。せっかく最上級の料理を堪能中だってのに」

「COSMOSの見解は?」

ベアは一呼吸置いて返答した。

「シナリオ208に該当」

「なんでもお見通しか」

苦笑しながらホームに報告する。
指揮官のスティール中佐は驚いた様子もなく

『すぐに長官に許可を求める』

きっといつもの鉄仮面のような面で言っているだろうと私は思った。
ライフルを構え直しながら私はスウィートに頷いてみせる。

「ベア、スロー、レイン、ニコル仕事にかかるぞ」

「あぁ、ビショップ。もう見えてる」

ベアと組んでいるスローがシステム越しに視線をリンクさせてくる。
スウィートルームの扉が開かれて、完全武装したブラジル陸軍1BFEspの兵士6名と上官とみられる制服を着た男がひとり隊列を組んで姿を現した。
隣のベッドルームでは防音されているのを良いことに相変わらず男と女が忘我の時を演じている。

「ベアは対象のマーキングと一帯のシステムダウン。残りはお客さん」

ベアによってディスプレイの表示が切り替わっていく。
脅威対象の7人はレッド、女と絡み合っているあの男はブルーの輪郭で身体が強調されていく。
私はスティール中佐に報告する。

「中佐、対象をマーク」

『命令を伝える。脅威対象を全て排除せよ。HVTは無力化せよ』

物は言いようだ。排除、無力化、表現はどうあれやることは変わらない。

「女も一緒ですが?」

「民間人ではない」

「了解。チーム、合図で攻撃」

テクノロジーの進化は私達兵士から様々な手間を解放してくれた。
レティクル越しに捉えたターゲットの照合、ゼロイン、弾道計算、誰がどの程度の脅威であるか?
味方の状況はどうであるのか?
命令は正規なものか?
それらは全て機械が確認し補正してくれる。

人間は、特に私達のような職業の人間に求められるのは決断することと、その決断を実行することだけだった。

決断だけは人間がしなければならない。

戦闘適応調整によって任務中に悲しみや苦しみといった倫理的な感情は感じないように抑制されていても、私は人間だ。

そういう訳で我々はライフルのトリガーを引き絞ればよかった。

ホテルの照明が一斉に落ち、通信網はドローンに遮断され、分厚いスウィートルームのガラスが弾け飛ぶと戦車の装甲すら貫く弾丸が空気を切り裂きながら襲いかかる。

私とスウィートは素早く照準を移動させて異変に気づいて動きを止めた裸の男女を捉えた。

男の上に乗っていた女が髪を振り乱しながら、ソファに置いてあるバッグに手を伸ばそうとする。

「スウィート」

「あぁ、見えてる。見えてる」

男も女も、何が起こったのかすら解らずにいただろうが、すべては見えている。

すべてが記録されている。

生体情報からすべてを暴かれ、検証され、評価され、0と1に置き換えられる。

私たちが撃ち抜いたものは人間であるのか、データであるのか、そんなことすら解らなくなる。きっと調整が効きすぎている。

「脅威排除完了」

巨大なハンマーで打ち砕かれたように無残に転がった彼らを何とも思わない自分に浸りながら、私はチームに撤収を命じた。

                                 To be continued

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